「credit」 実態なき単なる信用力情報が現代経済の基盤 - 中編
前編より続きます。
「credit」について、上手く解説している動画がありました。まずはそちらをご覧下さい。
なお「30分で判る」というタイトルですが、多分30分では咀嚼出来ません(笑)
なかなか良く出来た動画ですが、最も本質的なリクツには踏み込んでいませんね(^^;
昔の経済は単純明快だった
動画内のグラフで、creditは細かい波動の連続であることを表現しています。
前編で解説したように、creditとは信用力情報です。個人であれ企業であれ、あるいは各国政府であれ、信用力情報は日々リアルタイムに変動します。だから一定ではなく、波動を成すのです。
かつそれは、一瞬にして消滅するという本質的性質を有するのです。
経済とは、社会におけるあらゆる取引の総和です。
取引とは本来、アナタが持っている現金と、商品・サービスを交換する行為でした。
ですから昔の経済といえば、あらゆる人々の持つ現金の総額の範囲で動いていました。
しかし現代経済は、そうではありません。
現代経済は信用力情報の総和
銀行は個人に対し、
――この人はそこそこの企業に既に5年勤続し、今後も定年までしっかり勤め上げそうだ。だから毎年100万円ずつ、30年にわたって返済する能力があるだろう。よし、30年2,000万円の住宅ローンを決済しよう。
と判断します。これがcreditです。
また企業に対しては、
――この企業は堅実な経営をしており、毎年ン億円以上の売上を上げている。今後数年、毎年ン千万円の返済能力があるだろう。よし、5年ン億円の融資を実行しよう。
と判断します。これがcreditです。
各国政府も同じ事です。誰もが、
――この国は毎年ン兆円の税収がある。今後数年、毎年ン兆円の返済能力があるだろう。だからン兆円までの負債に耐えられるに違いない。
と予測します。これがcreditです。
そういった判断――creditつまり信用力情報――の総和が、現代経済を形成しているのです。
将来の収入を先食いする現代経済
では、現代経済は昔の経済とどう異なるのでしょうか。
結論を言えば、
「将来の収入まで見込み、将来の返済能力を査定した上で、今、その総額を支払可能額と見做す」
というわけです。
昔の経済は、たった今保有する現金だけで動いていた。しかし現代は、
「保有する現金プラス、将来の収入まで先食いして動いている」
というのが実情なのです。
だから実態以上に膨らんでいるのです。
また今回のCOVID-19騒動のように不測の事態が発生すれば、将来の見込みが変化しますから、途端にcreditが収縮したり消滅したりするのです。
繰り返しますが、現代経済は実態なきcredit(信用力情報)が基盤となっていますから、そのような本質的リスクを有するのです。
過去のバブル経済崩壊だとかリーマンショックだとか、今日のCLO破綻リスクによる金融危機だとか、全てはそこに起因します。
何故、お先真っ暗なのか
というわけで、カンの良い方はもうお解りでしょう。
現代経済は一見羽振りが良いですけれど、その実態は、
「将来の収入まで先食いし、膨らましている」
というわけです。
ちなみにそれを支えるのが、金融理論です。
銀行の自己資本比率だとか中央銀行の預金準備率だとか、近年よく耳にするレバレッジなどといったルールは、
「creditという、実際の手持ち現金より膨らんだ資金需要に、金融機関が応じるため」
の仕組みだと言えます。
話を戻しますと、現代経済とは将来を食い潰しているのです。
今後も順調に人口が増え、経済活動がますます盛んになる……という前提であれば、持続可能です。
ですが現実は異なります。
先進国の人口は頭打ち、あるいは減少傾向にあります。大航海時代及び植民地主義の時代とは異なり、新たな市場開拓も先が見えています。
各国、及び各国の企業は熾烈な経済戦争を続け、互いに疲弊しています。
つまり現実は、順調な人口増も経済規模拡大も困難なのです。であれば、現代経済は持続不可能なのです。
にもかかわらず、次々と将来の収入まで先食いする経済理論が未だ肯定されている。
おまけにその基盤たるcreditは、一瞬にして消失するリスクを孕んでいます。
だから、将来が見えないのです。お先真っ暗なのです。私達一般市民誰もが、将来に対する漠然たる不安を抱えているのです。
後編に続きます。
ディスカッション
コメント一覧
>――この国は毎年ン兆円の税収がある。今後数年、毎年ン兆円の返済能力があるだろう。だからン兆円までの負債に耐えられるに違いない。
と予測します。これがcreditです。
税収は「取引成立数」×「税率」ってだけなんで、実際のその国の供給力(=経済力)とは無関係ですよ。
供給力に比べて流通貨幣量が少なければ取引自体成立しないんで、いくらでも実態よりも小さくなります。今の日本がコレ。
逆にかつてのジンバブエみたいに供給力なんてほとんど無くても、流通貨幣量さえ多ければ一回の取引の額が大きいんで、税収はいくらでも大きくできます。
今の日本のGDPは約500兆円ですが、売れ残った商品が廃棄されて取引されていないことを考えると、実際には1000兆円、2000兆円規模の経済でしょうね。
まともに財政支出をしていたら、今頃国民の預金は一人6000万円とか増えていたらしいですよ。
例え消費者の需要自体が存在しなくても、公共事業とか技術投資を政府が増やしていれば、「需要創出」はダイレクトにできますからね。
人工的に創出できる消費は経済力とは何の関係もありません。
技術的蓄積無しには達成できない供給こそ経済力です。
匿名さん、コメントありがとうございます。
もしかしてcreditの意味を誤解されていませんか?
>税収は「取引成立数」×「税率」ってだけなんで、実際のその国の供給力(=経済力)とは無関係ですよ。
おっしゃる通り、そんな事はひとことも書いていませんよね。
税収(額)とはいかなるものか……ではなく、creditの話をしています(税収からいかに政府のcreditを算出するか、でもありません)
匿名さんは、おそらく古典経済の論点(例えば需要と供給)で話をされていますか?
当記事(前中後編)では、「現代経済は、古典的(基礎的)経済学の視点では語れないんですよ~」という主旨で解説しています。
>流通貨幣量さえ多ければ一回の取引の額が大きいんで、税収はいくらでも大きくできます。
おっしゃる通りでしょうね。ただ、当記事の主旨とは直接関係ありませんが。
残念ながら、記事と匿名さんのコメントは論点が噛み合っていないようです。
credit(信用/信用力)について、前出の動画等で再度ご確認願います。
※なお当ブログ記事は、動画のさらに一歩先に踏み込んで(動画で明らかにされていない事を)解説しています。